− 弘法大師『二度渡航説』 −
宝善院住職 松下隆洪


中国・五台山から日本を望む大師
「ふたたび大師」の像
(宝善院オリジナル尊像・本堂前)
■ はじめに ■

 今を去る千数百年前のことです。弘法大師は遣唐使船で唐の都・長安に渡られました。余り昔のことですから長安に渡られる以前のお大師様がいずこにおられたのかだれも知るものがありません。突然降ってわいたように、遣唐使船という日本国の公式派遣船の記録にお名前が浮かんでこられます。このためお大師様の入唐以前のご業績について多くの議論があり、いわばこの期間は弘法大師伝の空白期、謎の期間とされています。

 宝善院隆洪和尚はある夜、霊告により、この謎の期間、既にお大師様は密かに中国に渡られ修行を重ねられていたというお告げを受けました。そこで『弘法大師二度渡航説』の論を発表し、霊夢に基づき、中国密教の聖地「五台山」頂上よりわが国を望見する大師像を製作しました。

 千数百年の昔、万里の波頭を越え、二度にわたり中国大陸に渡られたお大師様の霊跡をたたえこれを『ふたたび大師』と名づけました。なにごとによらず、「ふたたび」を祈願するに、ふしぎな霊験があります。

 本論は昭和52年、筆者が33歳の時『六大新報』誌上に発表した論文を一部手直ししたものです。

平成7年7月吉日
福生山 宝善院二四世
     松下 隆洪